Révision Du Livre

平和を愛する男がチョイスするブックガイド

「昭和史1926-1945」

授業形式の語りおろし形式という形をとり、出版直後から「わかりやすい通史」として話題になり、その後も版を重ねてきた「昭和史」シリーズの、待望の文庫化である。 この本は、平凡社の女性編集者の 「学校でほとんど習わなかったので、昭和史の「し」の時も知らない私たち世代のために、手ほどき的な授業をしていただけたら、たいそう明日のためになると思うのですが」 という提案があり、この企画に興味を示した、同社の日本音声保存のスタッフが 「どうせなら録音して、誰にでも聞けるCDにしよう」ということで、彼らのために著者が後学のために引き受けた講演録を書籍化したものである。 なぜ日本の学校で現代史を習わないかというと、答えは簡単である。世界史・日本史問わず、日本の学校はご丁寧にも歴史以前、つまり石器時代から教え始める。学校行事やら何やらで授業が進まないことも多い。気がつくと、年度末なのに授業は産業革命(世界史)、江戸時代(日本史)までしか進んでいない、というケースは日常茶飯事だ。そのためほとんどの高校生は、現代史は個々で勝手に勉強して…というのが実情である。 問題は「何から知識を得るのか」というテキスト選択で、うっかり「つくる会」に代表される復古論者が書いた本を読み「真実はこれだ!」と言い張る輩が少なくない。そのため、現代史に関してはテキスト選択が重要な問題になってくる。著者がこの本を語りおろそうと思ったのは、今や国内でも希少価値になりつつある戦争体験者として、急速に右傾化する世論(ネット・リアル問わず)を憂える気持ちから、この本を書いた。 彼の著作には旧日本軍をテーマにしたものが多いが、これは文藝春秋社の編集者時代、ジャーナリスト・軍事評論家伊藤正徳のアシスタントとして、旧日本軍の資料集めに奔走していたことも影響している。そのため、本作もタイトルは「昭和史」となっているが、扱っているテーマは旧日本軍の行動が、当時の国際関係(特に日米関係)にどのような影響を与え、それが日本にどんな不利益を与えたかを詳しく述べている。 他の著作でも見られるが、著者の立場は「親昭和天皇・反軍(陸・海軍双方共)」で一貫している。特に、旧陸軍が中国大陸で行った蛮行の数々について「天皇のあずかり知らぬところで起きたこと」であることを繰り返し述べているが、その点については読者の見解は大きく分かれるだろう。 巷間に流布されている言説として「太平洋戦争は陸軍主導であり、海軍は陸軍強硬派に引っ張られた犠牲者」という見方がされているが、それは誤りであり、むしろ海軍も自分の勢力拡大のために、陸軍の方針を支持した。山本五十六米内光政らに代表される海軍穏健派は強硬派の方針に異議を唱え続けたが、強硬派は「海軍のドン」東郷平八郎伏見宮に取り入り、彼らを主流派から外した。その結果日本がどうなったのかは、皆様ご承知の通りである。 当時のメディア・文化人も投書は反戦の姿勢を見せていたが、メディアが日本の国情以上以上に戦線拡大を煽り、文化人・知識人も「バスに乗り遅れるな」とばかりに積極的にこの動きに乗ってしまった。開戦当時の作家の言葉が紹介されているが、憑き物に取り憑かれているようなその発言を読むと、いいようのない恐怖感にとらわれる。 この本は作者の思いがたっぷり詰まっているが、基本的な史実はきちんと押さえているという意味で、一読の価値がある。 この本が、多くの人に読まれることを祈って止まない。