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Révision Du Livre

平和を愛する男がチョイスするブックガイド

「ピケティ特集@東洋経済」

経済学の理論書これだけ注目を浴びるのは、マルクス資本論以来なのではないか?

世界中で巻き起こっている「ピケティ旋風」が止まらない。 去年(2014年)に書かれた「21世紀の資本」は900ページ(英語版、日本語版は728ページ)を超える大著にもかかわらず、世界中で100万部以上(日本では7版13万部)が売れる大ベストセラーになった。お堅い学術書がこれだけ売れるのは異例の事態で、世界中のメディアは、彼の一挙手一投足に注目している。「彼は経済学界のロックスターだ」と書くメディアもあるのは、公式会見でもネクタイを着けない彼の服装によるものである。 トマ・ピケティは1971年フランス生まれ、両親は1968年のパリ5月革命に関わった、市民運動の闘士。22歳で経済学博士号を取得した直後、マサチューセッツ工科大学(MIT)准教授に就任。だがアメリカの経済学界の雰囲気になじめず、わずか2年でフランスに舞い戻る。帰国後は、フランス国内で「一流」と言われる学校で教鞭を執る。2000年、フランス最優秀若手経済学者賞を受賞。同年社会科学高等研究院代表研究者に就任。2006年パリ経済学校の創立に参画、初代代表に就任するも、翌年からは既知の政治家が大統領選に出馬し、その人物を応援することを理由に代表の座を離れた。現在は、同校教授として教鞭を執っている。 この書籍は大著であるが故、購入者は海外・日本ともいわゆる「知識階級」と言われる人が多い。扱っているテーマがテーマだから、個人的には日本語版は2~3冊の分冊にして、貧乏人にも変えるようにするなどの配慮が欲しかった。700ページ超で税込みで6,000円を超える値段は、貧乏人には購入を躊躇してしまう値段である。 「理解するのが難しい「読む時間がない」と嘆くサラリーマンに配慮して、各雑誌メディアはこぞって「ピケティ特集」を組み、「21世紀の資本」での彼の主張をコンパクトに紹介している。私自身、3種のメディア記事を読んだので、その中身を簡単に書いてみたい。 石橋湛山以来のリベラル寄りのスタンスをとる「週刊東洋経済」は、2015年1月31日号で、全118ページ中50ページをピケティの特集に費やしている。特集記事冒頭の6ページで、彼の生い立ち、研究活動、政治スタンス、アベノミクスの評価、話題を呼んだ発言を紹介している。 先述の通り、彼は22歳の若さでMITの准教授になるが、わずか2年で帰国した。アメリカの経済学者が現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭していること、彼らが他分野の社会学者を見下していることに我慢ならなかったからだ。皆様ご存じの通り、アメリカの経済学者は新自由主義を信奉する人間が多いが、ピケティはそれについて

「自分たちがトップ所得層におり、彼らの多くはアメリカ経済はかなりうまく機能しており、とりわけそれは才能と実力に正しく報いているからだと信じている」(同号p50)

と、辛らつな言葉を投げつけている。 東洋経済の特集では、「21世紀の資本」の内容とそこで展開される理論の要点をわかりやすく紹介しており、さらにこれまでの経済学史の流れと意見対立が起きる理由、代表的な反対意見を掲載している。 [speech_bubble type="fb" subtype="L1" icon="1.jpg" name="元米連邦準備制度理事会議長 アラン・グリーンスパン"] 「(彼のやり方は)資本主義のやり方ではない」[/speech_bubble] [speech_bubble type="fb" subtype="R1" icon="1.jpg" name="ジョージメイソン大学教授 タイラー・コーエン"] 「最も成功している市民への法的・政治的・制度的経緯と支援がなければ、社会はうまく機能しない」」[/speech_bubble] [speech_bubble type="fb" subtype="L1" icon="1.jpg" name="ニューヨーク市立大学教授 デヴィッド・ハーウェイ"] 「『21世紀の資本』は、資本について全く何も語っていない」[/speech_bubble] [speech_bubble type="fb" subtype="R1" icon="1.jpg" name="MIT教授 ダロン・アセモグル"] 「格差を考える上で、最も重要な制度的要因を無視している」[/speech_bubble] [speech_bubble type="fb" subtype="L1" icon="1.jpg" name="スタンフォード大学教授 チャールズ・I・ジョーンズ"] 「ピケティの主張は、推論の域を出ていない」[/speech_bubble] というのが主だった反対意見だが、個人的にはどれも賛同できない意見ばかりである。何よりも彼らの反論は、ピケティが感じた 「現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭している」 ことについて、何も答えていない。 なぜこれほどまでに、経済学は深刻な対立を引き起こすのか?このことについて、早稲田大学竹田青嗣教授は

「現代の経済学は、資本主義が進んだ道を後付けすることしかしておらず、どうしたら調和的に成長できるのかの答えは全く出ていない。高度な数学・統計学を駆使して自然科学になぞらえることが、経済学には出来ていない。実証主義を標榜しているのに、実際には2~3の学派が常に対立している上、特定の政治的勢力や回想の利害を各派が代弁しているから、自然科学のように普遍的な理論に統合されることがない。これでは、一般人は何を信じたらいいのかわからない。専門家の対立は、アンチ○○になってしまっているのが現状だ」(同号p66〜p67インタビュー要旨)

と述べ、その解決法については 「価値観の差異を認め、普遍的ルール作りへの歩み寄りを」 と提案しているが、これはNGOに所属している人たちがl、長年言っていることと同じである。だが、いざやろうとするとなかなか難しい。「多文化共生」を唱え訴えているNGOの人間も、自分たちの唱える意見・自分たちと違う階層及び学歴の人間の意見を聞いたり、親しく交流しようという姿勢が見えないのが現実だ。年代が若ければ若いほど、その傾向は強くなる。いくら相手の言い分が正しいと思っていても、ある問題で団体同士の根深い確執があると「相容れない」と言い張る可能性が大だ。お互いが自分の言うことが正しいと思っているから、絶対自説を譲らないからたちが悪い。 「こんなに面白い!最先端経済学」というタイトルがついた後半の特集では、8つの視点から経済学の見方を紹介している。印象に残ったのは、一頃NGOの世界で注目を集めた「マイクロファイナンス」の項目である。2002年にバングラデシュで設立された、世界最初のマイクロファイナンス機関である「グラミン銀行」の知名度が広がると「貧困撲滅の切り札になる」と言われたが、返済方式が借り手側に厳しいこと、短期的に収益が見込める事業以外は、利用者にとってメリットが見込めないこと、グループ内の連帯責任と相互監視の圧力が強いことなどが原因で、当初の思惑ほど貧困撲滅には効果がないのが現実である。もっとも、マイクロクレジット側でも個人単位での融資制度実施、返済期間やその方式などに改良を加えて利用しやすくしてるそうなので、新制度導入でどれだけ効果があるのか見守りたいところである。 さて、次回は「週刊ダイヤモンド」「Newsweek」の記事の感想を取り上げてみる。