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Révision Du Livre

平和を愛する男がチョイスするブックガイド

「名門高校人脈」

 

「あの有名人とこの有名人は、大学の同期(または先輩・後輩の関係)」という話はあちこちで交わされるが、「高校の同期(または先輩・後輩の関係)」という話はめったに聞かない。当事者やその友人が口を開かない限り、部外者にはわからない、ということが多い。 ところが、著者の友人や仕事関係の人は、大学の話になるとかしこまったことしかいわないのに、高校時代の話になると、とたんに生き生きとした表情になる人間が多いそうだ。高校のネットワークってどんなものだろう?という疑問が、著者にこの本を書かせるきっかけになった。 この本には、全国47都道府県で「名門」といわれている国立・公立・私立高等学校出身者についてまとめた本であり、一部の高校については校風・歴史・教育内容についても紹介されている。 とはいえ、この本は上記のこと以外についてはほとんど触れられていないといってよく、見る人にとっては単なる「学校紹介の延長」にしか過ぎないという人もいるだろう。「あいつとこいつは同じ高校」「あの著名人の出身高校はどこだ?」といった、辞典みたいな使い方をする分には多少有用かもしれないが、それ以外での存在価値は見出しにくい。 また、取り上げられている学校も、その地方でトップに位置する学校がほとんどでそれ以外はあまり取り上げられておらず、取り上げられていてもコラム程度でデータが少ない。そのため「文句をいわれそうだから、ついでに掲載してみました」という雰囲気は否めない。そのため当該校OB・OG以外の卒業生及び関係者が本書を見たら「何であの高校が取り上げられているのに、わが母校は取り上げられないんだ?」と不満をもつだろう。出展に関しては独自に取材した記事もあるが、中にはインターネットの記事を参考にしていると思われる部分も散見される。著者は仮にも「ライター」という肩書を名乗る以上、もう少し足を使った丁寧な裏づけ調査があってもよかったのではないか。一例を挙げれば、静岡県立静岡高等学校の記事。この学校は高校野球ファンなら誰でも知っている、高校野球の名門校であるが、同時に静岡県内でも一、二を争う進学校として有名である。そんな高校が、どうして毎年「夏の高校野球」静岡予選で、上位を争う学校になっているのか、不思議に思う人は多いに違いない。 静岡県には県立の進学校なのに、スポーツが強い学校が少なくない。野球では静岡高校・掛川西高校韮山高校、サッカーでは清水東高校藤枝東高校である。これらの学校は県立進学校なのに、スポーツの大会でもそれなりに結果を残している。その秘密はいったいどこにあるのだろうかと、かねてから不思議に思っていた。だがこの本では、静岡高校野球部が結果を残している理由について、毎年10人の生徒が「野球推薦」で同校に入学しているとあるだけである。 なぜ同校野球部が、毎年のように県予選である程度の結果を残すことができるのか?、今年(2015年)の選抜大会に出場した静岡高校の野球部監督と野球部副部長が、日刊ゲンダイの取材に答えてくれた。同校が導入しているのは「学校裁量枠」という入試制度で、静岡県だけが導入しているとのことである。これは私立高校の「スポーツ推薦入試」に相当するが、私立のそれと違い公立高校である以上、学力も重視される。裁量枠の条件と対象となる部活は各校によって異なるが、同校の場合、学校の授業について行けるだけの最低限の学力(同校の一般入試偏差値は71)・野球の技量が審査対象になる。この枠で入る生徒は年度によって違い、10人の年もあれば、1人も採らないことがあるそうだ。この入試を受けられる生徒は、県内の中学校に通う生徒だけだそうだが、同校の野球部を狙って他地域の中学二年生が静岡県内に転校した場合はどうなるのか、記事ではそこについての言及がない。 私立校の「スポーツ推薦」の場合、クラス編成は一般生徒と別クラス・別授業になることが多いが、静岡高校はあえて「裁量枠」で入った生徒を、一般クラスの中に入れるようにしている。「裁量枠の生徒」だけで固めてしまうと、一般生徒との間に溝ができるからだ。もちろん「裁量枠」で入ってきた生徒の学力は、一般入試で入った生徒よりも落ちるが、一般生徒もこの制度に理解を示してくれているという。彼らも、一般生徒とうまく人間関係を構築できているようだ。 ただ、気になる点が一つあった。私立校の「スポーツ推薦(特待生入試を含む)」で入学した場合、退部した時は学校もやめなければいけないケースがほとんどらしいが、この制度を利用した生徒が部活を続けられなくなった場合はどうなるのか、本記事ではそのことに関する発言がないのも気になった。ネットで調べたら、学校によって残れるケースもあれば、退学しなければならないケースもあるらしい。 本書では「大学」ではなく「高校」の人脈にターゲットを絞ったことは評価されるが、それだけといった感じである。各地域には、その地域の経済や産業を支える人材を輩出した商業高校・工業高校や、偏差値は低いかも知れないが、個性的な人材を生みだした高校も多数存在するのだが、これらの学校が世に送り出した卒業生は紹介されない。紙幅の関係もあり、偏差値や世間の評判が高い学校を紹介すればいいと著者は思ったのかも知れない(マーケティング的なことを含めて)。国立大学の附属高校には、職業科だけの学校も存在する(筑波大学東京工業大学愛媛大学の附属高校には、職業科だけで構成される附属高校がある)が、残念ながらこの本では紹介されない。著者の周囲の人間は、おそらく進学校・名門校出身ばかりで、底辺校や職業科系統の学校出身者がいなかったのだろう。続巻として「名門商業高校・工業高校」というタイトルの本を出してもらいたいものだが、作者にはその気があるのだろうか?