読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Révision Du Livre

平和を愛する男がチョイスするブックガイド

「モア・リポートー女性たちの生と性」

女性たちが社会に与えた、衝撃の告白。 その内容は、発光から30年以上経った今も十分生々しい。

 

雑誌で女性のヌードをはじめて目撃したのは、2歳の頃だろうか?だが母はそれらの写真を「神様が隠した」と言って、どこかに隠してしまった。おそらく母は女性のヌード写真を「汚らわしいもの」だと思っていたのだろう。性教育についても同じで、私は「性」に関する知識は、自分で身につけるしかなかった。 私が小学校時代(1970年代後半)、「婦人倶楽部(1920〜1988年、講談社発行)」「主婦と生活」(主婦と生活社発行、1946〜1993年)「主婦の友主婦の友社発行、1917〜2008年)」といったいわゆる「婦人雑誌」は、「オーガズム」「オンナに目覚めた夜」などといった刺激的なタイトルで、過激なSEX特集を毎月のように掲載していた。「主婦の友」に至っては「SEX特集」と銘打った別冊を毎月発行していたほどである。我が家にある「婦人倶楽部」には、主婦のオーガズム体験記が掲載された。彼女らが手紙で同誌編集部によせた告白記の内容は、40年近く経った今読んでも生々しく、男子が書いたポルノ小説のセックス描写よりも遙かに刺激的であり、小学生だった私には衝撃的だった。 1970~80年代は月刊婦人誌の他に、祥伝社が発行する「新鮮」、光文社が発行する「微笑」という隔週刊の女性週刊誌があった。一応「女性誌」と銘打っているので、掲載内容は芸能人に関する記事が中心である。だがこの両誌のウリは芸能関係ではなく「月刊婦人誌」以上に過激なSEX記事だったのではないか?両誌には毎号のようにSEX関連の記事が、ご丁寧に女性の裸の写真付きで掲載された。「主婦と生活」と発行元が同じである「週刊女性」に至っては、読者自身のヌードを披露するコーナーが存在した。彼女たちを撮影するのは、プロの写真家である。おそらく彼女たちは、自分が一番きれいな姿であるうちに、己の生まれたままの姿を遺したかったのだろう。 小中学生の頃、女子の同級生たちは自分の裸を見られるのを嫌がった。その一方で女性誌に、SEX記事に夢中になり、自分のヌードを掲載したがる「オトナの」女性たちの存在がいることは、子供心に不思議だと思っていた。勝手な憶測だが、これらの記事を読みながらせっせと「自家発電」に勤しんでいた男子中・高生も多かったに違いない。と同時にこれらの記事が、彼らの「性教育」の教科書という役目を果たしていた。そういえば‘1970年代~1980年代に放映されていたテレビドラマも、女優たちが平気でスクリーンやテレビカメラの前で、自分の生まれたままの姿を晒し、時には頭を揺らしながら嬌声を上げる場面が多かったと記憶している。 世間にはこれだけ「SEX関連記事」を掲載する女性誌が多いにもかかわらず、1983年にこの本が出版されたときの衝撃は大きかった。私が考えるに、理由は2つ。1つはこの本を編集した「MORE」という雑誌はファッションが中心の雑誌でであり、他の女性誌が力を入れている「SEX」についての距離を置いていたと思われていたこと、もう1つは「月刊婦人誌」が掲載していたSEX関係の記事が「自分が体験した快楽の記録」が中心なのに対し、この本では女性自身が自らの言葉で、SEXに対する欲求を赤裸々に語ったことである。 「MORE」が1980年・1981年に実施したアンケートに回答した女性は、13歳~60歳の5,770人(1980年は5,422人、実名回答は1,460人。1981年は348人)。編集部が用意した質問は全部で45問。読者に自らの具体的な性生活を事細かく尋ねる内容のため、読者から寄せられた回答の整理・分析に2年半を費やした。インターネットが普及した現代、同様の質問をネット上で募集したら、回答を寄せる読者がどのくらいになるのかは想像できないが、おそらく相当数の回答が寄せられるだろう。むろん日本国内だけでなく、海外に在住する日本人および日本語を理解する外国人も、この企画に積極的に参加すると思われる。もっともこの企画自体をもって、日本女性の性に関する意識を代表することはできない。「MORE」の読者層は20~30代の、それもある程度知的水準が高い女性である。だからこれらの数値は、あくまでも参考程度として受け止めるべきであるが、1980年代初頭における、女性の「SEX」「性」についての意見・思考をまとめた書物として、大いに評価されるべきだろうと思う。 このアンケートは、1983年「モア・リポート」という単行本にまとめられ、3年後に文庫化された。本書はその前半にあたり、 この本には、17歳~52歳(当時)の、様々な背景を持つ43人の回答が掲載されている。43人の中には「処女」という人もいれば、SEX体験が豊富な人もいる。ただ雑誌の読者層を反映してか、短大以上の学歴を持つ知的階層の高い人が多数派を占めている。高卒・中卒と思われる回答者は少数派だが、地頭は周囲が思っているほど低くないというのが、回答を読んだ私の印象である。 回答者全員に共通するのは 「男性はびっくりするほど女性の身体について無知である」 ということ。AVの影響で、自分だけ気持ちがよくなればさっさと終わり、私のことなんかまるで考えていないと訴える女性が多い現代だが、驚くべきことに、30年以上前のアンケートですら、そのように思っている女性が多かったとは。回答者の中には、親から「SEXとは、汚らわしいものである」という教えを受け、SEXについてろくな知識もないまま新婚初夜を迎えたという女性もいた。不幸にも夫もまた、SEXについて満足な知識を与えられないまま初夜を迎えたという。当然そこには「性の歓び」というのは存在しない。その女性はこのアンケートで、結婚後の性生活は不満足であると回答した。 愛撫もそこそこに女性の中に入り、一方的に動いて射精する男性。事が終わった後、女性の気持ちを考えず、さっさと寝てしまう男性。女性の意思とは関係なく、己の欲望のままにSEXを迫る男性。避妊に非協力的な男性。この本には、彼らに対する不平不満をぶちまける女性の声が多く紹介されている。当然のことながら、そのことを訴える女性の多くは、夫婦仲がうまくいっていないか、離婚を経験している。反対に、充実した性生活を送っている女性は、夫との関係がうまくいっている。驚くべきことに「夫との性生活は充実しています」と答えた女性の中に、夫とは別の男性と付き合っていると告白する女性も、複数回答を寄せていたこと。現在では、某タレントではないが「不倫は文化」になっているが、当時はそこまで世間も寛容ではなかったから、彼女たちはかなりぶっ飛んだ(「進んだ」とは、微妙な気がする)感覚を持っていたと思う。18世紀フランスの貴族社会では、不倫や浮気は当たり前だから、先の回答を寄せた女性は、ロココ時代の風習を現代でも実践していると思っているのかも知れない。また、回答を寄せた女性の中には「『SEXは汚らわしい』という感覚を持っている」という回答を寄せた女性の中には、親のSEXを目撃したことの悪影響があるらしい。私は幸か不幸か、自分の親がSEXをしている場面を見たことがないが。 既存女性雑誌が特集する「男の心を掴む手段としてのSEX」「男のご機嫌を取るSEX」「男に尽くすSEX」から「自身の快楽を追求するためのSEX」へ。実は女性も、積極的にSEXを愉しみたい。夫から丁寧に愛され、めくるめく歓喜の世界に浸りたい。愛する人(だけ)に、己のあられもない姿を欲望のままにさらけ出したい。だがそれを拒んでいたのは「結婚するまでは処女でなければならない」という処女至上主義や「妻は、たとえ自分がその気になっていなくても、夫にその気があればベッドの上でも夫に尽くさなければならない」という「貞淑な妻」を求める世間の目。彼女たちの願いは、女性が持つ欲望の壁をぶち破り、SEXは男女間の至高のコミュニケーションであるということを世間に理解させるということだった。この本は、女性のSEXについての主張を世間に知らせるための第一歩だったのかも知れない。 この本を読み終わって、本書に回答を寄せてくれた女性は、今どんな生活を送っているのだろうと想像してしまう。さすがに最初の回答から30年以上が過ぎ、当時40代・50代だった女性は、おそらく現在は鬼籍に入っているだろう。そして回答当時10代・20代だった女性は、今この本に掲載された自分の回答を観て、どんな思いを抱いているのだろうか聞いてみたい。30年前の自分と比べてみて、今の自分の「SEX」に対する意識はどう変化したのだろう?一人の男性として、大いに気になる。 若き日に勇気を出して答えた青春の記録として、私は彼女たちに敬意を表したい。