弊ブログ読者にも、2007年に発生したサブプライムローン問題がもたらした、経済混乱を覚えていられる方も多いだろう。本書はこの問題に起因する、リーマン・ショックから始まる世界金融危機を引き起こしたのが、アメリカ・ブッシュ政権(子)が強力に推し進めた 「新自由主義経済」の結果であると指摘する。著者コンビは彼らにポチのごとく従った、小泉政権とその経済政策ブレーンである竹中平蔵が推し進めた「規制緩和政策」を一貫して批判してきた。二人は本書でこれまでの金融政策を批判し、これからの金融のあり方を模索したブックレットである。
二人は本書で、諸悪の元凶は世界中を席巻する「サブプライムローン」にあるとする。「ルポ 貧困大国アメリカ」でも書いたとおり、このローンは貧困者の生活と未来に壊滅的被害を与えたが、このローンは貧困者だけでなく、世界経済・金融全体も被害者だと訴える。そしてその元凶となる存在として、証券会社の存在を指摘する。
本来証券会社は株の売買を主眼とし、銀行業務や投資信託業務には無縁の存在だった。ところが証券業界は、サブプライムローンを債権化し、さらにそれを細かく投資会社に分散して売りつけることにより「影の金融システム」を構築した。このシステムは、アメリカの土地バブルが上昇し続けることによってはじめて機能する。著者は土地バブル崩壊を予測し、警鐘を鳴らし続けてきたが、不幸にしてその予測は的中してしまった。「影の金融システム」崩壊の恐ろしさは、最終的に判明・確定する負債総額がまったくわからないということであり、これらの金額がわからない限り、この不況がどのくらい続くのか予測不能であると著者コンビは解説する。このたびの「金融恐慌」対処にあたり、フランス・サルコジ大統領が、政敵である社会党幹部から
「あなたはいつから社会主義者になったのか」
と皮肉られるくらいに大規模な財政出動政策を示唆し、建国以来安全保障政策上の観点から、1930年代のニューディール政策を例外に、少しでも「社会(民主)主義的」政策を忌み嫌っていたアメリカですら、オバマ次期大統領(※1)が、自動車メーカー「ビック3」救済のために公的資金投入を決めているが、日本はいまだにきちんとした雇用・経済政策を提示できないでいる。にもかかわらずこの期に及んで「やれ道路だ公共施設だ」とわめき散らしている政治家達は、醜悪を通り越して滑稽にしか見えないと思う有権者は多いだろう。金子氏は、日本はこれまで推進してきた「構造改革」路線を全面的に転換し、将来につながる産業政策と、自給率を高める農業支援策を進める必要があると説くが、残念ながら「ブックレット形式」の本書では、ページ数の関係もあり、その具体策が述べられていないのが残念である。
本書では70ページ強と少ないが、豊富なデーターを駆使して今の経済状況を理解できるようにしている。しかし経済知識が乏しい人間には、やや理解が難しいところもあるところも多い。とはいえ、初版発行(※2))以来大規模書店のベストセラーで上位にランクされているという事実は、それだけ今の経済状況に危機感を抱いている人が大勢いるということである。1年後、今の経済状況が最悪の展開にならないことを切に祈るのみである。
※1 本書評は、当ブログ開設以前に運営していたブログから転載したものである。「オバマ次期大統領」と表記しているのは、この記事は2008年大統領選後にアップされたからである。
※2 本書は2007年に刊行された。以下付記。
この書評を書いてから7年強、日本経済はよくなるどころか破綻への道を歩んでいるような気がしてならない。
サブプライムローン問題発覚時(2007年8月)の日本の内閣は第一次安倍晋三内閣だったが、この内閣は同年7月の参議院選挙で大惨敗を喫する。与党内の忠告や世間の反発を押し切る形で、安倍内閣の改造内閣が発足するが、そんな政権が有効な経済政策を打ち出すことは極めて難しい。結局発足から一月足らずでこの政権は退陣を余儀なくされる。退陣理由が「総理の体調不良」という、前代未聞の情けないもの。某夕刊紙は「お腹が痛くなったから政権を放り出した」と罵倒したが、無理して続投したところで、政権運営が行き詰まるのは目に見えていた。「参議院選挙敗戦の責任をとる」と発言していたら、こんなみっともない結末にはならなかったはずである。
2012年12月の衆議院総選挙で自民党が勝利し、総裁として自民党を率いた安倍は総理大臣の座に返り咲いた。政権復帰早々、彼は「アベノミクス」なる経済政策を打ち出す。それが日本にどんな影響を与えたのか、良識のある皆様はご存じのことだと思う。日銀は二度にわたり「異次元緩和政策」をとるが、結果的には国内の格差問題をひどくさせただけだった。それを糊塗するために日銀は、異例のマイナス金利政策をとる。しかしこの政策も、専門家からは
「既に企業は内部留保でパンパンになっているから意味がない。『マイナス金利』とは、本来は銀行がベンチャー企業に積極的な融資ができるような政策のはずなのだが、肝心の銀行は焦げ付きを怖れて、融資そのものに消極的になっている。それをなんとかするのが政府の仕事だが、安倍総理にはその考えがないようだ」
と批判される有様。少子化・高齢化社会が進む今の日本に、高度成長期の政策を導入してもうまくいかないのは自明の理だが、この人にはそのことが理解できないようで残念だ。何しろこの御仁は、大学の恩師から
「『保守』を名乗るのはかまわないが、そのために政治思想史をきちんと学んだ形跡がない。経済にいたっては、最初から受け付けなかった」
と暴露され、浜矩子・同志社大学大学院教授からは「アベノミクスはアホノミクスだ」と罵られる始末。管理人は人口を増やすために子育て環境を整え、一時的に税金を引き下げるなどして消費活動を活性化させ、それと並行して将来につながる産業政策を導入し、農業支援策を強化して自給率を高めることが大事だと思っている。しかし、この人にはそんな真っ当な経済政策を打ち出そうという気はさらさらないようだ。
私が考えるに、真っ当な経済政策を打ち出そうとしない理由は二つある。
・「アベノミクス」という経済政策は、もともと自身の「お友達」だけを豊かにするためのものである。
・中国との軍事対立を想定し、経済が行き詰まったら戦争で好景気を到来する、と考えていること。実際国民の猛反対にもかかわらず、昨年成立させた「安保法制」について、中国と一戦交えることを記者との懇談で明かしている。
早い話、この人には庶民の懐事情のことには関心がないのだ。国家と企業、お友達の懐事情が豊かになればそれでよし。彼の政治姿勢についてはいろいろあるけれど、話が長くなるので、項目を改めて書くことにしよう。